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執筆者の写真 ファームハウスわっくん

第10回 『なにせにせものハムレット伝』

更新日:2021年5月11日

4幕2場

今回登場する人物

クローディアス・・・・・ クマデン王国国王、ハムレットの叔父

ガートルード・・・・・・・ クマデン王国王妃、ハムレットの母

レアティーズ・・・・・・・ ポローニアスの息子

オフィーリア・・・・・・・・ ポローニアスの娘

森の妖精・・・・・・・・・・・・・語り手

森の妖精: 大学で勉強を続けるために、国をはなれたレアティーズのことを皆さん憶えていますよね。オフィーリアのお兄さんです。その彼が、父ポローニアスの死の知らせを聞いて、帰国してきました。不眠不休の強行日程にくわえ、怒りと悲しみのため、かなり興奮してます。悪役クローディアスにだまされないと良いのですが。あ、そうこうするうちに、彼がやって来ました!ものすごい血相です。かなり怒ってますね!

(走る足音、だんだん近づいてきて、レアティーズが剣をもって登場)

レアティーズ: クローディアス、どこにいるんだ。ひきょう者。出てこい、おく病者。軟弱者。職務怠慢、エロ親父!おい、どこにいる!ひきょう者。おくびょう者・・・。

クローディアス: もうやめろ。レアティーズよ。頼むからやめてくれ。私はここにいる。目の前にいるではないか。落ち着くんだ。おまえ、そんなことを叫びながら、城じゅうを駆けまわってきたのか。

レアティーズ: (大きな声で)ようやく姿をあらわしたか。このひきょう者・・・。

クローディアス: もうよい、やめろといっておるのだ。私は隠れてなどいないではないか。武器ももっていない。だから、大きな声をだすのはやめて、まずは落ち着いて、その剣を納めたらどうだ。

レアティーズ: いや、断じて納めはしないぞ。父の命を奪ったのはおまえだ。ここで会ったが百年目、この場で葬ってやるから、覚悟しろ! 

クローディアス: まて、まつんだ、レアティーズ。落ち着けといっておるのだ。私は殺してなどおらん。私はまったくの潔白だ。それだけは正々堂々と主張することができる。

レアティーズ: つべこべ言わずに、さっさと懺悔(ざんげ)をするんだ!終わるまでは、生かしておいてやる。大体、おまえ以外の誰が悪人だというのだ。おまえが一番の悪人面(ずら)ではないか。だから、犯人はおまえだ。

クローディアス: レアティーズよ、人を外見だけで判断してはいけない。まあ、落ち着け。

レアティーズ: いいや、どこからどう見たって、おまえが犯人だ、早く懺悔を終わらせろ!

クローディアス: まて、レアティーズよ。話をよく聞くんだ。確かに私の顔は不細工かもしれない。ただ、それは致し方ないことなのだ。それに、見た目と中身は往々にして一致しないものなのではないか。いいか、お前の父上を殺したのは私ではない。真の犯人は、誠に残念ながら、我が息子、イケメンのハムレットなのだ。

レアティーズ: おまえは単なる不細工ではない。人相そのものが悪いのだ。内面の悪さが顔ににじみでているのだ。

クローディアス: ずいぶんなことを言ってくれるではないか。だが犯人は本当にハムレットなのだ。いいか、私は真実を語っている。この目をしっかりと見てくれ。

レアティーズ: 腐った魚のような目だな。ハムレット様は立派なお方だ。

クローディアス: おまえは人を外見だけで判断しておる。大学で一体なにを学んできたのだ。確かに、あれもかつては立派な王子であったかもしれん。しかしながら、あいつの身勝手のために、おまえの妹のオフィーリアまでもが苦しんでいるのだ。いいか、全ての悪の根源は、あいつなのだ。おまえの父を殺したのもあいつだ。

レアティーズ: では、ハムレットを殺します!おのれ、ハムレットめ、オフィーリアを手玉にとった上に、父まで殺すとは。悪辣非道の悪人め、必ず地獄に落としてやる!

クローディアス: (傍白)やっぱりこいつは単純だ。素直で扱いやすくてよい。(レアティーズにむかって)おい、とにかく気持ちを静めるんだ。そして私の話を、最後までよく聞くんだ。

レアティーズ: そうですね。まずは気持ちを静めなくては。そして、確実にハムレットを殺すための計画を立てなくては。父の死の知らせを受けて以来、ずっと陛下を殺すことばかりを考えてきました。けれど、もう大丈夫です。今は、陛下を心から信頼し、お言葉に従うことにいたします。

クローディアス: 立派な心がけだ。しかし、問題はそのハムレットなのだ。あいつはトラブルメーカーではあるが、国民にとても人気がある。なんといっても、顔が良く、いかにも正義の味方といった雰囲気をしているからな。だから不用意に殺してしまうと、人々の反感をかってしまう可能性があるのだ。おまえの身にも危険がおよぶかもしれない。だから、とりあえず、あいつをクビキリ王国に使者として送ることにしたのだ。(傍白)計画通りに事が進めば、棺桶に入って帰ってくることだろうが、万一の場合にそなえて保険も必要だからな。(レアティーズにむかって)だから復讐は彼が帰国してから、ゆっくりと考えれば良いのではないか。

レアティーズ: 確かにそのとおりかもしれません。とりあえずは、仰せの通りにしたがいましょう。しかし、ひとたびハムレットが帰国したならば、即座に殺します!

クローディアス: よかろう。天国のポローニアスも、今のおまえの言葉を聞いて、さぞかし喜んでいることだろう。さすがは孝行息子だ。今後は、私を父と思って頼りにしてくれ。ところで、頭の良いおまえのことだから、もう分かっているとは思うが、今話したことは、わが妻ガートルードには秘密にしておいてほしいのだ。あいつは息子のハムレットをとても大切にしているからな。

レアティーズ: もちろんです。

クローディアス: それから、お前の妹のオフィーリアについてなのだが、はっきり言うと、状態がかなり悪いのだ。ハムレットの身勝手にふりまわされて、ずっと元気がなかったのだが、ポローニアスの死がよほどショックだったらしい。あれ以来、正気を失ってしまい、城のなかを自由気ままに走り回っているのだ。神出鬼没で、なかなかつかまえることができないのだ。今、ガートルードが探しにいっておるところだ。

レアティーズ: 噂(うわさ)には聞いていたが、あの、可憐なオフィーリアまでもが、ハムレットの犠牲になってしまったのか。父を殺して妹の正気までを奪うとは、まさに極悪非道の悪人だ。

(ガートルード登場)

ガートルード: ああ、レアティーズ、来ていたのね。ちょうどよかったわ。オフィーリアがみつかりました。今、こちらに向かっているそうです。ポローニアスの死後、この城のなかを緑豊かな野原だと思い込んで、汚れた服を着替えもせず、あちらこちら駆けまわるようになってしまっているのです。そして、どこで憶えたのかは分からないけれど、意味深長な歌を口ずさむようになってしまいました。あ、やってきました。あちらの扉から。(オフィーリア、狂乱の様子で登場)

レアティーズ: ああ、オフィーリア! なんという変わり果てた姿になってしまったのだ。私が留守になどしたのがいけなかったのか。

オフィーリア: みなさん、おそろいのようですね。それでは、お待ちかねのお歌をご披露いたしましょう。東洋の美しい娘の悲しい恋の物語でございます。静かに鑑賞してくださいね。

レアティーズ: ああ、私のことが分からないのか、久しぶりに帰ってきたというのに。

オフィーリア: (歌)東の国のかれんな少女おとめさん。

  今日は、朝から、うきうき、わくわく、どきどきしてる

  あこがれの人から、部屋に招かれて

  行ってはいけぬといさめる、友の言葉にも耳を貸さず

  心を弾ませ、ドアをあけるおとめさん

  喜びあふれて、胸に飛び込む、おとめさん

  求められるままに身を任せる、おとめさん

  でも、部屋からでるときは、ほとけさん

  今はお墓のなかで眠ってる

   心を病んだ殺人鬼、彼は牢屋でこう言った

  おれの言葉など信じなければよかったものを

  ああ、なんて哀れな、おとめさん

  今はお墓のなかで眠ってる

レアティーズ: 何という、すさんだ歌詞なのだろう。言葉もでない。

オフィーリア: さて、今日は、皆さんにすばらしいプレゼントを用意しました。順番にお配りしますから、静かにお待ちください。ちゃんと全員分あるので、けんかしないで待っててね。横取りもいけませんよ。

レアティーズ: 分かった、分かった。そうしよう。

オフィーリア: (レアティーズにむかって) それでは、まずお兄様からです。あなたにはローズマリーをさしあげげます。花言葉は「思い出」です。女の人はたくさんいるかもしれないけれど、私のことも、たまには思い出してね。

レアティーズ: ローズマリーの花言葉は合っているではないか。狂気のなかにも正気があるのか。

オフィーリア: (クローディアスにむかって) 王様、あなたには消臭剤をあげましょう。新発売です。強力な脱臭効果がさらに高まったそうです。でもすべての臭いを消し去ることはできません。過信は禁物ですからね。

クローディアス: (傍白)苦いことを言うではないか。もしかして、こいつも知っているのか。だが、たとえそうであったとしても、あえて口を封じる必要はないだろう。どうせ誰も信じないはずだから。

オフィーリア: (ガートルードにむかって)王妃様、あなたには、造花のバラを差し上げます。花言葉は、「偽物の美しさ」。消臭剤といっしょにおトイレにおいてね。それから、アサガオの花も摘んだけれど、お父様が亡くなったときに、枯れてしまいました。かわりに昼顔の花を差し上げます。花言葉は・・・、ご想像にお任せします。皆さん、贈り物は届いたでしょうか。

クローディアス: あの清純なオフィーリアの心の底に、こんなにも冷めた眼がひそんでいたとは。

オフィーリア: (やや遠くから)それでは皆さんごきげんよう。さようなら、さようなら。

レアティーズ: オフィーリア、待て、待つんだ!

オフィーリア: 遅すぎましたの、お兄様、遅すぎましたのよ、どうぞお元気で。(退場)

ガートルード: ああ、待って、ちょっと待ってちょうだい。やさしいオフィーリア。(退場)

クローディアス: ああ、ガートルード。待つんだ、待ってくれ。(貴族1に向かって)おい、あの2人の後を追うのだ。決して見失うなよ。しっかりと監視するのだぞ。

クローディアス: さて、レアティーズよ、もう分かっただろう。私は全くの無実で、おまえの味方だ。分かったら、落ち着いてワインでも飲みながら、おまえの気が収まる道をさぐろうではないか。

レアティーズ: 分かりました。父上を殺した上に、妹の人生を台無しにしたハムレットは絶対に許せません。なんとしても殺します。

クローディアス: 立派な心がけだ。全面的に応援しよう。心ゆくまで正義の道を歩むがよい。

レアティーズ: はい。実は、私、留学先から帰国する途中、高価な毒薬を買ってまいりました。ほんのわずかでも体内に入れば、必ず死に至るという最強の毒薬です。どんな解毒剤も効きません。

クローディアス: なるほど。最強の毒薬か。

レアティーズ: もともと、この毒は、陛下を殺すつもりで買ってきたものです。しかし、真実が明らかになった今、ハムレットを殺すために使うことにします。

クローディアス: なるほど、そうか、そうだな。それが良いだろう。おーい、おい、誰かおらぬか、そこの者、ちょっとのどがかわいた。ワインのおかわりをくれないか。グラスごと新しいワインと交換してくれ。いいか、新品とだぞ。ワインも新しい瓶をあけてくれよ。まあ、それはさておき、重要なのは確実にハムレットに復讐するための計画だ。

レアティーズ: あんなやつ、力づくで殺してしまえば、それで済むことではありませんか。

クローディアス: いや、レアティーズよ、それほど簡単なことではないのだ。我が妻ガートルードは、息子のハムレットを心から愛している。しかも、私はガートルードなしで生きていけないのだ。彼女を心から愛している。だから偶然の事故としか思えないような方法で殺さねばならないのだ。

(ガートルード、悲しみに沈んだ様子で、再び登場)

ガートルード: 悲しい知らせがあります。たった今、オフィーリアが亡くなりました。この部屋を出てすぐ、裏の小川に向かい、そのほとりを走りまわっていたそうです。そして、向こう岸に、きれいな花をみつけて、それを摘もうと、身を乗りだしたときに、足をすべらせて、水のなかに落ちてしまったそうです。目撃したものの話によると、しばらくの間は、幸せそうに歌を歌いながら漂っていましたが、ゆっくり水の中へと消えしまったそうです。 

クローディアス: かわいそうに、なんということだ。ところで、その目撃者は、一体なにをしていたんだ。溺れてしまう前に助けようとは考えなかったか!

レアティーズ: いいえ。きっと、あまりの美しさに目を奪われて、身動きすることができなかったのでしょう。妹の命とともに、その苦しみが消えただけでも、良かったと考るしかありません。

ガートルード: ああ、やさしいオフィーリアの魂が天国に召されることを願い、今宵は皆で静かに祈りましょう。

クローディアス: そうだな。まずは、心のこもった葬儀をあげなくてはいかん。レアティーズよ、すぐに埋葬の準備にとりかかるんだ。おい、誰か、葬儀屋を呼べ。牧師との交渉が必要になるかもしれん。自殺の疑念をかけられたら、埋葬の儀式をおこなってもらえんからな。事故死ということで何とかなるだろう。文句を言われても、強引に押しとおすまでだ。国王の権力でなんとかするさ。さあ、忙しくなるぞ!

森の妖精: せっかくお兄さんが帰ってきたのに、オフィーリアが亡くなってしまいました。かなしいですね。それに、クビキリ王国に向かったハムレットはどうなるんでしょうか。主役が不在では劇も盛り上がらないですから。次回も必ずアップするから、待っててね!

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