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  • 執筆者の写真 ファームハウスわっくん

第8回 『なにせにせものハムレット伝』

更新日:2021年4月1日

3幕1場


今回登場する人物


ハムレット・・・・・・・・・ クマデン王国の王子

クローディアス・・・・・ クマデン王国国王、ハムレットの叔父

ガートルード・・・・・・・ クマデン王国王妃、ハムレットの母

ポローニアス・・・・・・ 宰相、クローディアスの相談役

ホレーシオ・・・・・・・・ ハムレットの親友

森の妖精・・・・・・・・・・・・・語り手

役者1・・・・・・・・・・・・・・・旅回りの劇団の団長

その他の役者


森の妖精(語り手): 宮殿の大広間に仮設の舞台が設置され、着飾った貴族たちが続々と集まってきました。ハムレット様が楽しみにしていたお芝居が始まるようです。それにしても、今夜は皆かなりおめかししてますね。お城での生活って、案外ヒマなのかもしれません。けれども、そんなお気楽な気分を吹きとばしてしまいそうな、大変な事が起こりそうな予感がします。当たらなければ良いのですが。あとは読んでのお楽しみ。


ハムレット: お客もかなり集まってきた。そろそろ開幕の時間だが、準備はできたかな。


役者1: 万全です。いつでも幕を開けることができます。


ハムレット: わかった。私が相図(あいず)をしたら、始めてくれ。


役者1: 了解しました。(退場)


ハムレット: さて、我が友ホレーシオよ。打ち合わせどおり、君にはこの席からクローディアスの様子をしっかり見張っていてほしい。劇の最中に、少しでもおかしな様子があったら教えてくれ。


ホレーシオ: お任せください。一瞬の表情の変化も逃さぬよう、まばたきする暇も惜しんで、凝視(ぎょうし)しつづけます。


ハムレット: 頼んだぞ。芝居が終わったら、教えてくれ。(広間全体に響き渡る大きな声で)さて皆さん、そろそろ開幕の時間です。ご着席ください。


ポローニアス: (間髪を入れず、大きな声で) それでは、お芝居に先だって、この私ポローニアスが、一言ごあいさつせねばなりますまい。うん(咳払い)。


ハムレット: (傍白)なんだと、あいさつなど頼んでいないぞ。つくづく、目立つのが好きなやつだ。


ポローニアス: さて、皆さん、何を隠そうこの私、学生の時分に演劇をかじったことがございます。いや、決して食べた訳ではございませんよ。プロの役者を目指して日々練習にはげみ、将来を嘱望(しょくもう)された有望新人であったのです。「嘱望」と申しましても、髪の毛を増やそうとしたわけではありません。ちなみに、これは地毛でありますが、それ程までにこの私が有望な役者であったという意味なのでございます。舞台に立ったこともあります。議事堂の前で殺されるジュリアス・シーザーの役でございましたが、立派な死にっぷりであると絶賛されたものです。実際のところ、劇のなかで死ぬのはそれほど悪いことではございません。大いに目立つことができますし、何度でも生き返ることができるのですから、こんなに面白いことはございません。じっくりと時間をかけて息絶えるのがコツであります。今日のお芝居でも見事な絶命シーンを見ることができるかもしれません。楽しみにしております。なにやら物騒な話となってしまいましたが、今宵は和やかな雰囲気のなか、ハムレット様プロデュースの素晴らしい演劇とともに、夜のひとときを過ごしましょう。それでは、ハムレット様にマイクをお譲りいたしましょう。


ハムレット: さて、ようやく、長~いお話が終わりました。ネタがすべっても心が折れないところが、役者向きですね。才能は十分にあると感じました。今からでも遅くはありません、ぜひ転職をお勧めします。まあ、どうでもいい話はさておき、気をとり直して、ノリノリでいきましょう。皆さん居眠りしていませんか。そこの飲み過ぎのあなた、起きてますか。そちらの食べ過ぎのあなた、眠くありませんか。そして、一番上段の特等席にお座りの、何かのしすぎのお2人、お元気にしてますか。今宵は、皆さまのために素晴らしい傑作をご用意いたしました。芝居の題名は、『美しき熟年女性-美徳のよろめき』です。 さて、それでは、皆さん、イッツ、ショー、タイム!・・・の前に、ちょっと、タイム! 始まる前に、この私ハムレットが物語の解説をさせていただきます。舞台は、文化の都ウィーン。そこで実際に起こったある殺人事件を題材にした作品です。 

クローディアス: ハムレットよ、なかなか刺激的な題名だが、ここで上演して差し障りのない内容なんだろうな?筋書きはきちんと把握(はあく)してあるのか。


ハムレット: もちろんです。心にやましいものさえなければ、なんの差し障りもありません。実話にもとづいた物語で、人の精神を深くえぐり取る、リアルドキュメンタリーとでも呼べそうな傑作でございます。それでは、開演!スタート!


(古風でロマンチックな音楽)


劇中の王: 我が人生の旅路も終わりにちかづいた。

私に残された時間はもはや長くはない。

もし、私の命がつきたなら、どうか、おまえは再婚し、残りの人生を幸せに暮らしてほしい。

人生とは、大海原を泳ぐ遠泳のようなもの、力尽きたものから消えてゆくのだ。


劇中の王妃: 陛下、何ということを…

結婚とは大海原をゆく一隻の船、命つきるとも、ともに航海をつづけ、決して後悔しないもの。

たとえ陛下が亡くなられても、私は再婚などせず、陛下とともに旅路を続けます。


劇中の王: それもよかろう。後悔なきよう生きるがよい。

私は眠くなってきた。一眠りするから、しばらく一人にしてくれないか。


劇中の悪役:(登場)

♪(ラップ調で歌う) しめ、しめ、めし、めし、めしの後

たらふく食って、お庭でお昼寝、優雅なご身分、不公平

しかも、王妃はべっぴん、いけてる女

ほしいぜ、ほしいぜ、もらっちゃえ~

今がチャンスだ、今がチャンスだ、迷わず、とまらず、即、実行

辺りを見回し、周囲を確認、指さし確認、ちょー、おっけー!

誰もいないぜ、猫もいないぜ、ネズミもいないぜ、やっちまおぅ!

ここにあるのは、効き目抜群、毒の薬(やく)、とっても危険な働き者

こいつを耳に流し込み、ぱっとこの場を立ち去ろう、

良い夢見ろよ、あの世でね、おれは、この世で良い夢を!

バイ、バイ、バイ、の、グッドバイ(退場)


劇中の王妃:殿下、そろそろお目覚めの時間かと、殿下、殿下、殿下!

ああ、何ということ、さきほどまでは、あんなに元気であられたのに

愛しい人が死んでしまった。ずっとお慕いつづけてきた立派な夫

私はあなたへの愛を胸に生きてゆきます。


劇中の悪役:(ラップ調で歌う)♪おい、おい、おい、おい、そこのベィビー 

ヘビーな気持ちにゃ、さっさとバイバイ

おれと一緒に、へい、へい、しないか

生きる歓び、愛しのベィビー! 

元気をだせよ、おれに任せて、楽しくやろう

従うだけの人生たぁ、違う楽しみ教えるぜ

何年たっても、何年たっても、いちゃいちゃ、ラブ、ラブ、チョーハッピー!

いくつになっても、いくつになっても

ラブ、ラブ、ラブ、それが本当の人生さ

カモン、カモン、俺の胸に、カモン、カモン 


劇中の王妃:♪(ラップ調で歌う)あん、あん、あん、ああん、あん

心の隙間に、希望の光がさしこんで、だんだん明るくなってゆく

過去は捨て去り、この世を楽しむ、それが世の常(つね)、人の常

私はあなたと暮らします。今日から、今から、すぐにでも。


クローディアス: (動揺して思わず立ち上がり、傍白) どういうことだ。なぜあいつが知っている。一体誰が現場を見たというのだ。他に誰が知っているのか。いやいや、落ち着かねば。私の誤解かもしれない。思わず立ち上がってしまったが、何とかこの場をごまかしてしまわねば。(広間に響き渡るほど大きな声で)もうよい。芝居は終わりだ。


ガートルード: あなた、どうかしました。どこか具合でも悪いのですか。


クローディアス: 何という、不謹慎。破廉恥極まりない。芝居は即刻中止だ。


ガートルード: 私の再婚をあてこするような話を上演するなんて、あの子も悪ふざけが過ぎます。

もはや私の手には負えません。


クローディアス: そのとおりだ。


ポローニアス: クローディアス様 、どうかなさいましたか。


クローディアス: いや、大丈夫だ、心配ない。ただ、この劇はあまりに不謹慎だ。我が宮廷にふさわしくない作品だ。全員を部屋にもどらせよ。(クローディアス、ガートルードとともに退場)


ポローニアス: 承知しました。(傍白)そうか、これから面白くなりそうだったんだが、仕方がない。(大きな声で)明かりをつけろ!国王陛下のご命令です。芝居は中止、各自すみやかに退席してください。繰り返します。芝居は中止です。全員、即刻、退席するように。


貴族1:(叫び声)明かりをつけろ!全員、退席。


貴族2:(叫び声)全員、直ちに私室にもどってください。

ハムレット: ホレーシオよ、あいつはとんでもなく動揺していた。


ホレーシオ: 火を見るより明らかです。それよりハムレット様、あちらからポローニアス様がやって来ます。


ポローニアス: ハムレット様 、ここにおられたのですか。ようやく見つけました。国王陛下は大変ご立腹のご様子です。それから、お母上がお部屋でお待ちです。すぐに行ってください。


ハムレット: なぜ、国王がお怒りなのか、おれには全く分からないのだが。お前にはあいつ立腹させた、ホシの目星はつているのか。


ポローニアス: それはもう、言うまでもございません。もちろん、ホシのめぼしはついております。


ハムレット: そうか、それはよかった。それなら、今夜のおかずは梅干にしよう。おまえもたまには粗食がいいぞ。毎日、油っぽいものばかり食べていると、早死にするからな。


ポローニアス: おっしゃるとおり、今晩は粗食にさせていただきます。まだ死にたくはありませんので。


ハムレット: それはそうと、あそこに浮かんでいる雲、ほらあの雲だ、まるで鯨のようなかたではないか。


ポローニアス: おっしゃるとおり。まさに、鯨のようです。


ハムレット: なるほど、そうか。おまえにはあれが鯨のかたちをした雲に見えるのか。おれには天井しか見えないがな。医者に行った方が良いぞ。おれは母上に会いに行く。


(ポローニアス退場。 ハムレット、ガートルードの私室に向かって歩きはじめる。途中で、祈っているクローディアスを見つける。)


ハムレット: ああ、待て、あそこで祈っているのは、クローディアスではないか。今こそチャンスだ!真実が明らかとなった今、もはや迷う必要などない。死んでもらおう。この短剣で奴の胸を一突き、そう、たった一突きだ。それで全てが終わる。この苦しみも終わるのだ。さあ、いくぞ!いや待て、今、あいつは祈っているではないか。神に祈っている最中に殺したならば、死後、あいつの魂が救済されてしまうかもしれない。あの世でどんな裁きが下るかなんて、誰にも分からないのだから。地獄落ちが、絶対に確実な瞬間に殺すべきだ。酔ってわいせつな言葉を吐いている時、快楽におぼれている時、そんな時こそが復讐にふさわしいのだ。今は、おとなしく立ち去ろう。(退場)


クローディアス: ああ、神よ。我が罪深き魂を救いたまえと祈りたいところだが、祈ることができない。死後の救いを求めて祈りたいが、悔い改めることができないのだ。先王殺しという罪深い行為によって得られた生活のなんと楽しいことか。毎日が充実して、歓びにあふれている。ああ、愛しのガートルード、おまえには悪いが、ハムレットには死んでもらうしかないのだ。あいつがどのようにして、おれの罪に感づいたのは分からない。しかし、間違いなく真実を知っている。だから殺すしかないのだ、我々2人の幸せのために。しかも、この手をよごすことなく確実に始末しなくてはいけない。どうすれば、良いか。そうだ、外国で始末してもらえばいい。クビキリ王国で殺してもらおう。あの国の国王とは浅からぬ縁がある。王子を一人殺す程度のことはやってくれるだろう。(暗転)


森の妖精: あちゃー、ハムレット様ったら絶好のチャンスを逃してしまいました。それどころか、大大大ピンチ到来です。この後どうなっちゃうんでしょうか。絶対アップするから、気長にまっててね。

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